「輸送人キロ」って?輸送人員との違いは?【鉄道用語解説】
鉄道の輸送量における主要な指標である「輸送人キロ」。あなたは正確に使えますか?
(読了目安:約4分)
皆様こんにちは。「Railway Frontline」運営者のNagatownです。
シリーズ【鉄道用語解説】の第1回は、鉄道輸送の規模を表す際に重要となる指標の一つである輸送人キロについて解説します。
輸送人キロって?
鉄道には、ヒトやモノを大量に、かつ長い距離運べるという特徴があります。そのため、鉄道の運営にあたっては”どれだけ沢山のヒトやモノを、どれだけ長い距離運んだのか?”ということを示す指標が不可欠であり、その指標こそが「輸送人キロ(読み:ゆそうじんきろ)」なのです。
※貨物輸送においてはこれを「輸送トンキロ」と呼びます。本記事では「輸送人キロ」を中心に取り上げますが、輸送トンキロについて知りたい方は、以下の説明における「輸送人員(人)」をすべて「輸送貨物(トン)」に読み替えていただければ大丈夫です。
輸送人キロは、以下の式で求められます。
輸送人キロ=輸送人員(人)×乗車距離(㎞)
その名の通り、”人”と”キロ”を掛けたものと覚えればOK。計算式から明らかなように、輸送人員と乗車距離がそれぞれ大きくなるにつれ、輸送人キロも大きな値になります。
言葉で説明すると、「輸送した各々の旅客(人)にそれぞれの旅客が乗車した距離(キロ)を乗じたものの累積」*1です。
簡単な例で説明してみた
式と言葉だけではイメージがわきにくいかもしれませんので、ごく簡単な例を用いて説明してみましょう。下の図をご覧ください。
まず、図の上方、青枠で囲われた部分を見ていきましょう。この路線では、1人が3㎞乗車したとします。そうすると、輸送人キロは「”人”×”キロ”」ですから1×3=3となります。
次に、図の下方、緑枠で囲われた部分です。今度は3人がそれぞれ1㎞乗車したとしましょう。再び「”人”×”キロ”」で輸送密度は3×1=3。おや?先ほどと同じ値ですね。
これは、「1人が3㎞乗っても、3人が1㎞乗っても、旅客交通量(=輸送人キロ)は同じ」ということを示しています。
もしも、輸送人員のみで両者を比較していれば、「1人が乗っているより3人乗っている方が交通量が多い!」という結論に至ってしまいますが、輸送人キロでは旅客の人数だけではなく、各々の旅客が乗車した距離も考慮に加えているため、より正確に交通量の大きさを把握することができます。ここに輸送人員と輸送人キロの明確な違いがあるのです。
実例:JRと大手私鉄の輸送人キロの比較
ここで、実際の輸送人キロのデータを見てみましょう。JR(旅客6社の合計)と大手民鉄(東京メトロを含む大手16社の合計)の比較です。コロナ禍の影響を受ける前の2017年度のデータとなっています。
輸送人員においては大手民鉄がJRを上回っていますが、輸送人キロで比べるとJRの方が大手民鉄よりも大きくなっています。
なぜこのような逆転現象が起きるのでしょうか?これについての詳しい説明は次項に譲ります。
輸送人員から算出できる「1人平均乗車キロ」も大事!
輸送人キロを求める式を再度示します。
輸送人キロ=輸送人員(人)×乗車距離(㎞)
これを変形すると、
輸送人キロ÷輸送人員(人)=乗車距離(㎞)
を得ます。
ここで、右辺にある乗車距離は、輸送人員が2人以上の場合にはそれぞれの旅客が乗車した距離の平均値となるので、「1人平均乗車キロ」と呼びます。つまり、
1人平均乗車キロ=輸送人キロ÷輸送人員
となります。
前項のJRと大手私鉄の比較において、1人平均乗車キロを求めてみましょう。
JRの1人平均乗車キロは、275,127 ÷ 9,488 ≒ 29㎞
大手私鉄の1人平均乗車キロは、126,558 ÷ 10,386 ≒ 12㎞
すなわち、JRの乗客は一人あたり平均29㎞乗っているのに対して、大手私鉄の乗客は一人あたり平均12㎞しか乗っていないということです。この差は、新幹線などの都市間輸送を主に担うJRと、通勤通学などの都市内輸送を主に担う大手私鉄との間の違いを考えれば、容易にイメージできると思います。
前項での問いかけに答えておくと、輸送人員は大手私鉄の方が大きいのに、輸送人キロではJRの方が大きくなるという現象が起きる理由は、「JRの方が大手私鉄よりも乗客一人あたりの乗車距離(=1人平均乗車キロ)が長いから」ということになります。
まとめ
以上が輸送人キロについての解説となります。最後にポイントをおさらいしておきましょう。
- 輸送人キロは、輸送の規模(旅客交通量)を、輸送人員と乗車距離の双方を考慮に入れて算出した指標である
- 「輸送人キロ=輸送人員(人)✖乗車距離(㎞)」で求められる
- 「1人平均乗車キロ=輸送人キロ÷輸送人員」は一人あたりの平均乗車距離を示す
練習問題
理解度確認のための練習問題を掲載しておきますので、知識定着にご活用ください。
問1. A鉄道では、15人の乗客がそれぞれ20㎞乗車した。このとき、A鉄道の輸送人キロを求めよ。
問2. B鉄道の2020年度の乗車人員は822,000人であった。なお、B鉄道は、2つの駅間を結ぶ全長2.5㎞の路線のみで営業している鉄道である。このとき、2020年度におけるA鉄道の輸送人キロを求めよ。
問3. C鉄道の輸送人キロは400、輸送人員は80人である。また、D鉄道の輸送人キロは800、輸送人員は50人である。このとき、C鉄道とD鉄道の1人平均乗車キロを求めよ。また、C鉄道とD鉄道の輸送状況を比較した際にいえることを述べよ。
練習問題の模範解答は次回の【鉄道用語解説】(3/16公開予定)にて発表します。どうぞお楽しみに。
それでは、最後までご覧いただきありがとうございました。
またお会いしましょう!
2022年3月14日
Nagatown
”Railway Frontline”
当サイト開設の背景や、基本的なスタンスなどについてご説明致します。
ごあいさつ
この度は、当サイト「Railway Frontline」へご来訪いただき、誠にありがとうございます。当サイトの運営者を務めております、Nagatown(読み:ながたうん)と申します。
当サイトは、本日2022年3月10日付で公開を開始し、以降順次本格的な運用に移行します。
読者の皆様あってのメディアであり、皆様とともに創り上げていきたいと考えております。どうぞよろしくお願い申し上げます。
自身のプロフィールをごく簡単に述べさせていただきますと、神奈川県内で就学をしている大学生です。経営学を専攻しています。小学生時代から鉄道に興味を抱いていたという典型的な”鉄ちゃん”タイプの人間ですが、私は駅名や型番にこだわるというよりは、鉄道が人々の暮らしの中でどのように役立っているのか、換言すれば「社会的存在」としての鉄道というものに対してとりわけ強い関心を持っています。小学生の頃から鉄道の専門書に親しみ、鉄道の運営の仕組みや交通政策上の位置づけ、各地の優れた取り組みなどについて独学で知識を蓄えてまいりました。
人生において、自分の好きな鉄道という存在を活用することによって、社会に役立ち、人に喜ばれるようなことができれば本望であると考えています。
当サイト開設の背景
本年2022年は、我が国で最初の鉄道が開業してから150周年の佳節となります。
皆様もご存じの通り、1872年の新橋~横浜間の開業以来、鉄道は日本の経済や暮らしに大きな貢献をしてきました。その間、様々な時代の移り変わりとともにその姿を変化させながら、鉄道の歴史は今日まで連綿と続いています。世界的な高速鉄道時代の口火を切った新幹線の存在や、安全性や定時性を支えるハイレベルな鉄道技術、大都市圏を中心とした旺盛な鉄道需要などを背景に、いつしか我が国は”鉄道大国”の異名をとるようになりました。
そうした中で、近年の鉄道を取り巻く環境の大きな変化には目を見張るものがあります。
最早我々にとって当たり前の存在となった高度な情報技術。長期的なトレンドである少子高齢化と人口減少、過疎化の進行。鉄道と競合する交通手段の発達、目下の新型コロナウイルス禍とそれを受けた大規模な行動変容…。枚挙に暇がないほどでありますが、これら一つ一つの要素が、鉄道というものの在り方に対して、かつてない大きな変革を迫っています。
眼前に迫る新しい時代は、鉄道にとって少なからず受難の時代となるかもしれません。これからも鉄道がその在り方を変革することなしに手をこまねいてばかりいれば、鉄道を活用するどころか、生き残りさえ困難になってしまいかねない。当サイト立ち上げにあたっては、こうした危機感が根底にあります。
当サイトが目指すもの
当サイトは、かような新しい時代に立ち向かう鉄道の将来像について、情報を収集し、分析し、提言し、時には議論する場となることを志向しています。
具体的には、鉄道や交通全般などに関わる最新の情報を分かりやすく紹介・解説する記事や、鉄道を語る上で登場するやや専門的な用語を解説する記事、鉄道を活用する具体的な方法に関する定量的なデータも含めたレポート形式の記事などといった、主に鉄道の今と将来に目を向けたやや硬派で深みのあるコンテンツを多く提供していきたいと考えております。
また、当サイトの記事を通して、鉄道に対する誤解(例えば「支出が収入を上回る事業=存在価値0」といった短絡的思考)などの払拭にも微力ながら貢献できればと考えております。
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ただし、当サイトではあくまでも鉄道の持つ可能性に注目します。鉄道と言えば「大量・高速輸送」が最も大きな特徴ですが、それ以外にも様々な存在価値が考えられますし、そうした考え方に基づいて鉄道を活用することに成功しつつある実例も各地に存在します。ある地域では、赤字ローカル線が住民の足となるだけでなく、地域の知名度を高め、人を呼び込む武器となったとき、もはやその赤字は赤字ではなく戦略的なコストと捉えられるようになりました。まさに鉄道の可能性が顕在化され、認められた例といってよいでしょう。
鉄道には、一定の限界はあるものの、世間一般に言われているよりもはるかに大きなポテンシャルがあり、それをなるべく客観的な形で明らかにしていこうというのが当サイトのスタンスです。そのためには、鉄道を始点とした考え方だけではなく、経営や政治、社会学といった分野からのアプローチも併用していくことが重要であると考えています。
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運営者自身も若輩につき経験不足の感は否めませんが、試行錯誤を重ねながらより良いものにしていきたいと考えておりますので、よろしくお願い申し上げます。
当サイトの提供する情報が、皆様の鉄道に対する見方を常にアップデートし、鉄道の未来に向けた実り多き議論を導くものとなれば、私にとって望外の喜びとするところです。
2022年3月10日
Nagatown