Railway Frontline

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国のローカル線検討会に招かれた委員たちの経歴や傾向は?【”検討会”を検討する】

利用者の減少に悩む地方ローカル線について、他のモビリティへの転換も含めた抜本的な改革を目指した国の検討会が行われています。検討会には学識経験者を含む6名が「委員」として招かれ、彼らを中心に議論が進められています。ローカル線の行く末を大きく左右しうる委員たちはどのような人物なのでしょうか?

皆さまこんにちは。「Railway Frontline」運営者のNagatownです。

今回は、国交省が主導するローカル線に関する検討会について、そこに招かれた委員たちに注目して取り上げ、そこから今後の議論の行方を占っていきたいと思います。

画像は事実上廃止が決定した函館本線倶知安駅(筆者撮影)

鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」って?

鉄道は、ヒトやモノを大量かつ高速に輸送できる交通機関として、我が国の交通形態における一定の地位を占めています。しかし、各地のローカル鉄道では、沿線における人口減少や少子化モータリゼーションやコロナ禍などにより利用者が大幅に減少するなど厳しい状況となっているのは周知のとおりです。

国交省としては、こうした路線について「鉄道事業者と沿線地域が危機認識を共有し、改めて大量高速輸送機関としての特性を評価したうえで、相互に協力・協働しながら、利用者にとって利便性と持続性の高い地域公共交通を再構築していくための環境を早急に整えていく必要」があるとしています。このため、国交省は国の関与・支援の在り方も含めた具体的方策を検討するための有識者検討会を2月14日に立ち上げ、夏頃のとりまとめを目指して議論を進めています。

ここでの議論において重視されているのは、「利用者始点に立った地域モビリティの刷新」という視点です。これは、民間企業者である鉄道会社による運営の下で利便性の低下と利用者の逸走という負のスパイラルが起こっている状況に対して、鉄道事業者と沿線地域の協働により、改めて利用者にとっての利便性や持続性を向上させるような地域モビリティを実現するというものです。鉄道に限らず、バス等への転換も視野に入れられている点が特徴で、立ち行かなくなりつつあるローカル鉄道について、バス転換も含めた議論を推進していくものとみられています。

検討会には、後述する6人の委員(有識者)のほか、オブザーバーとして鉄道事業者(民鉄協会・第三セクター鉄道等協議会・本州JR各社)やバス事業者(日本バス協会)、自治体関係団体(全国知事会・市長会・町村会)、国土交通省の各局(総合政策局・道路局・都市局・自動車局・鉄道局)から代表者が参加しています*1

各委員たちについての情報は?

1.竹内 健蔵 委員(座長)

座長を務める竹内氏は交通経済学を専門とする東京女子大学の教授です。一橋大の社会学部を卒業し、同大商学研究科博士課程後期を単位取得満期退学。その後、オックスフォード大大学院の社会学部経済副学部を単位取得満期退学しています。主な研究テーマとしては、「交通混雑」や「公益事業の料金問題」、「社会資本整備の諸問題(費用便益比、投資効果)」などがあります*2

大学の卒業論文のタイトルはずばり「国鉄赤字地方交通線問題小論」。国鉄全線完乗も果たしているといい、鉄道に対する造詣はかなり深いようです。

議事録を見ると、経済学者らしくインセンティブを重視する発言(事業者や自治体の取り組みに対してインセンティブを持たせるべきという主張)が多いのが印象的です。また、”鉄道は環境にやさしい”という論調に対して、少なくともローカル線においては利用者の少なさから環境負荷低減のためのモーダルシフトは理由にならないという点を指摘しています。

2.板谷 和也 委員

板谷氏は都市工学を専門とする流通経済大学の教授です。東京大の工学部、同大学院の新領域創成科学研究科博士課程を卒業しています*3

以前は専門誌「運輸と経済」の編集者をしていた時期があり、幅広くモビリティを取り上げていく中で、短距離の交通を維持するときの論点と長距離の交通を維持するときの論点には相違があると考えるようになったと言います。

輸送密度の低いローカル鉄道に対しては手厳しい論調が目立ちます。同氏が2019年に公共交通マーケティング研究会で行った講演の資料を見ると、沿線自治体が鉄道維持にこだわる理由として「『地域の衰退』につながる」「JRの努力不足」「国の責任」という三つを挙げたうえで、いずれもバスに代替できない理由ではないと喝破。鉄道の存廃は街の盛衰に影響しないし、国に責任を求めるのもお門違いだと、乗らない鉄道の存続を安易に求める沿線自治体の姿勢に鋭い批判を加えています。

もちろん、板谷氏も長距離の移動や定時性で鉄道が勝るような分野では鉄道の利点を認めていますし、利用拡大の見込める路線に対しては集中的に投資することが必要であると主張しています。とはいえ、都市内・都市近郊輸送はバスで代替可能というのが持論のようです。鉄道がバスに優越する要素は必ずしも多くないという観点から、「鉄道でなければダメだというような言葉を使用されるような方々に関しては、路線バス事業者に対して失礼なことをおっしゃっていると私は感じる」というような、やや踏み込んだ発言もしています。

3.加藤 博和 委員

加藤氏は、工学を専門とする名古屋大学の教授です。名古屋大と同大学院の工学部を卒業しています*4

公共交通に限らず「固定観念にとらわれず、新たなパラダイムを切り開き、臆せずに現場に出て、実際の世の中を変えることで閉塞した社会状況を打破する」ということを研究全般におけるミッションにしていると言います。利便性が高く、費用の安い公共共通実現を現場で目指していくために、”地域公共交通プロデューサー”という立場(ほぼボランティア)で様々な地域の鉄道存廃に関わっています。

長野電鉄矢代線など、廃線が決まった路線における地域交通の再編に関わることが多いことから”廃線処理投手”や”鉄道おくりびと”と呼ばれることもある加藤氏ですが、地方鉄道全般に関しては”トリアージ”が必要で、活かせる路線についてはきちんと整備して集中的に投資するべきという考えも持っているようです。

とはいえ、鉄道の維持を求める地域に対しては厳しい視線を向けています。2017年に同氏が行った地域公共交通シンポジウムin札幌における講演資料を見てみましょう。今回の検討会でも述べていますが、同氏がよく使う表現があります。それは「百回の陳情より一回の利用」というもので、50年前のローカル線における利用促進運動で言われていた言葉です。つまり、地域が当事者意識を持って取り組まなければ、外部からの支援で路線が残ったとしても意味はないし、守っていくことはできない、ということです。講演資料においても「地域自ら」という点を強調する記述が目立ちますし、主体的に参画しない地域の姿勢に対しては「アウトオブ論外」と激しく批判しています。また、「2つの『鉄道神話』」、すなわち「1.鉄道廃止代替バスは乗客を大きく減らす、2.鉄道が廃止されると地域が衰退する」という考え方についてもことごとく論破しており、このあたりの論理構成は板谷氏と類似した部分があると言えそうです*5

4.羽藤 英二 委員

羽藤氏は、交通工学を専門とする東京大学の教授です。広島大で工学の修士号を、京都大で工学の博士号を取得しています*6。地域の交通や災害復興について研究をしたり、地域への協力などを行っている専門家です。

今回の検討会では初回は都合により欠席で、第二回からの参加でしたが、席上では「鉄道にこだわらなければもっとバスを充実させて、公共交通をもっと便利にするっていうことも可能な地域もあるんじゃないかなと」「耐災害の信頼性みたいなことを考えたときに、必ずしも鉄道に依存すると言うことよりも…(中略)…バスのネットワークをより充実させていくことで地域のトータルの公共交通力を高めていくというようなことも、地元からある意味期待されている」というような、”マルチモード”の視点を印象付ける発言が多かったように思われます。つまり、鉄道以外のモードへの転換という点についても前向きであると言えるでしょう。

5.宮島 香澄 委員

宮島氏は、日本テレビ報道局の解説委員です。社会部、経済部の記者を経て、現在は経済全般と社会保障などを担当しています。ニュース番組で解説をする傍ら、政府の財政制度審議会や産業構造審議会などで財政政策や成長戦略などに関わってきたそうです。

重視しているのは将来世代に負担を押し付けることは許されないという世代間公平の視点です。日本は全体としてコスト意識が非常に低い国であり、次の世代も含めたコストパフォーマンスを考慮した公共政策の実施が重要であるとしています。

以上のような意見を持っていることから、ローカル鉄道に対しては概してコストパフォーマンスが低く、将来世代にも負担を押し付けてしまう面があることからバス等への転換に前向きな姿勢を示しています。「海外に行くと、意外と鉄道の駅っていうのは街から離れて不便な所にあるから鉄道と関係なく街を発展している…(中略)…次の世代にどういうような移動の仕方をするのかということをしっかり見極めてからじゃないと、なんとなく今いる人、しかもわりと真ん中以上の年齢の人たちの若干ノスタルジーに近いことだけでも進めるのは、やはりいかがなものか(原文ママ)」とも発言しています。

6.森 雅志 委員

森氏は、前富山市長で富山大学客員教授・非常勤講師と日本政策投資銀行特任顧問を務めている人物です。中央大法学部を卒業しています。19年に渡る市長時代には、富山ライトレールの整備などを含めたコンパクトシティ政策を強いリーダーシップをもって主導し、大きな成果を残したことは、都市交通に少し興味を持っている方であればご存じかと思います*7

検討会では他の委員と比べるとあまり発言は多くない印象ですが、富山市での経験を活かし、公共交通の利便性向上と合わせた利用促進策を行う自治体に対する補助制度の在り方や、”シビックプライド(自らが住む都市に対する愛着や誇り)”を喚起していくための公共交通の整備の仕方といった点について多く述べています。

今後の議論はどうなるのか

以上、各委員について取り上げてきましたが、全体を通してローカル鉄道については是々非々という立場をとっていると言えるでしょう。当然ながらローカル線が「すべて必要」と言う人も「まったく必要ない」と言う人もいません。むしろ、板谷氏や羽藤氏にみられるような「見込みのない路線は積極的に他のモードへ切り替えたうえで、見込みのある路線には集中的に投資する」という”トリアージ”の考え方が委員の中では主流のようです。そう考えると、一定の利用者数を下回るような路線についてはこの検討会を機に引導を渡される可能性が高まってくる一方で、事業者のコスト削減施策によりそのポテンシャルを活かしきれていなかった路線の躍進につながる可能性もあると言えるのではないでしょうか。

とはいえ、ローカル鉄道に対する委員の目線は概して非常に厳しいものです。特に効率性の観点や、時代に伴う環境の変化に対応できず、路線維持の大儀を見出せないままノスタルジーなどで残そうとしているといったような批判が目立ちます。しかもそうした見方においてほとんどの委員が一致していますから、鉄道の維持に積極的な自治体の長などが出てきて異を唱えたとしても、よってたかって”袋叩き”にされてしまいそうな状況です。そもそも、委員を選出したのは国交省ですから、国としても安易な鉄道維持を唱える人々を黙らせたいという狙いがあったのかもしれません。

また、特に板谷氏や羽藤氏などの言動からは、これまで鉄道事業者が内部補助によって鉄道を維持する構造を所与のものとして受け入れ、利用促進や交通再編などに向けた取り組みにおいて主体性を欠いてきた地元自治体に対する強い苛立ちも窺えるところです。現在も廃線を警戒して事業者との協議に応じない自治体があります。こうした自治体の姿勢を改めさせるための実効性のある対策が強く求められるかもしれません。

 

予断を許さない状態にある地方ローカル鉄道。国の検討会はその未来をどう描いていくのか、今後とも緊張感を持って注視していきたいと思います。

 

 

最後までご覧いただきありがとうございました。

またお会いしましょう。

 

2022年5月15日

Nagatown