Railway Frontline

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車両の置き場が無い…。留置線計画を巡る横浜・MM線の苦悩【鉄道最新情報】

みなとみらい線(以下、MM線)では、終点の元町・中華街から線路を伸ばし留置線を建設する計画が進められています。建設に対する住民の反発や、会社側が建設を急ぐ理由など、留置線計画を巡る最新事情をお伝えします。

皆さまこんにちは。「Railway Frontline」運営者のNagatownです。

今回の【鉄道最新情報】では、みなとみらい線の新たな留置線建設計画について取り上げます。

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MM線の留置線建設計画とは?

MM線は、横浜駅元町・中華街駅間を結ぶ路線で、2004年2月に開業しました。近年発展が著しいみなとみらい地区を走る路線で、輸送人員もコロナ禍直前まで増加を続けて2019年度には単年度の輸送人員が8,000万人を突破しました。始点・終点を含めて6つの駅があり、全線が地下区間となっています。横浜駅以北では東急東横線に直通し、さらにその先の東京メトロ副都心線東武東上線西武池袋線などとの直通列車が乗り入れてくる点も特徴です。

そんなMM線ですが、終点の元町・中華街駅から線路を約600m延伸し、港の見える丘公園の地下に10両編成×4編成が収容可能な車両留置場を整備する計画があります。というのも、現在みなとみらい線の車両は東急電鉄が所有する元住吉検車区内の敷地の一部を間借りして収容しているのですが、この借地契約は一時的なものであるため、代替の車両留置場を整備する必要があるのです。また、この留置線は元町・中華街駅の引上げ線としても利用し、定時運行の確保やダイヤ乱れの早期収束などに活かすことができるとされています*1

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画像はhttps://www.mm21railway.co.jp/info/news/uploads/information_20200410_2.pdfより引用

計画が発表され、最初の説明会が開催されたのは2017年。それから数年間にわたり地元との調整などが行われ、今年3月1日、横浜高速鉄道は「関係機関との調整、現場体制の構築などが整った」として準備工事を開始しました*2

 

一部地権者からの反発

しかし、この建設を巡り周辺住民からの反発が出ていることが話題となっています。神奈川新聞のWebメディアである「カナロコ」が4月4日に投稿した記事によると、周辺住民の一部は「会社の説明が二転三転する中で一方的に工事が始まった」と主張しているといいます*3

曰く、2017年と2018年の説明会では担当者が「地権者が一人でも拒否すれば工事はしない」と説明していたのが、2021年には「これまでの説明は誤りだった」と撤回し、反対意見があっても工事を行う方針に転換。今年2月の説明会においては一方的に工事の再開を通達されたというのです。

さらに、地元住民が懸念しているのは地下トンネル工事に伴う陥没事故です。2016年以降、博多駅前(福岡市営地下鉄七隈線の工事現場)や新横浜駅前(相鉄・東急直通線の工事現場)、東京都調布市(外環道の工事現場)で陥没事故が相次いでいることが念頭にあるとみられます。

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留置線の建設を急ぐ事情

一方、横浜高速鉄道の側にも事情があります。

そもそも、みなとみらい線横浜駅から元町を経て、根岸・上大岡・二俣川などを経由して中山で横浜市営地下鉄グリーンラインと接続する「横浜環状鉄道」の一部として計画されていました。横浜~元町・中華街間をみなとみらい線として建設する際、同区間では開発地区や既成市街地が多く車両留置場の整備が困難であったことから、将来の根岸方面への延伸時に車両留置場を整備することが適当と判断され、それまでは東急の車両基地を間借りして対応することとなったのです。

しかし、延伸事業は着手されることなく時間が経過。東急の車両基地を間借りする契約は当初2019年1月を期限としていましたが、代替の車両留置場の検討が遅々として進まず、横浜高速鉄道は東急に対して契約の延長を申し入れることに。東急は5年の延長には応じてくれたものの、東急としても相鉄・東急直通線開業に伴う車両の増備などで余裕がなく、一刻も早い敷地の返還を求めています。こうした中で横浜高速鉄道は留置線の建設を急がなければならない状況に立たされているのです。

 

別の方法はないのか?

今年2月の説明会では、地元住民から出た意見・提案に対する回答も用意されました。その中に、「港の見える丘公園の地下に留置線を建設する以外の方法で解決することはできないのか?」というものがあります*4

まず、東急の車両基地の借地契約を延長するか、他の直通先(東武鉄道西武鉄道など)の車両基地を新たに借りることはできないのか、という意見ですが、東急については前述の通り継続的な契約は困難、その他の直通先についても、協議の結果借地は困難であるうえ、遠隔地に拠点を置くことになれば現在の運行を維持できないとの理由で不可能と結論。

次に、みなとみらい線の終端部ではなく、駅間に留置線を整備することはできないのかという指摘。ここでは、①新高島駅みなとみらい駅間、②みなとみらい駅馬車道駅間から分岐、③馬車道駅日本大通り駅間、④日本大通り駅元町・中華街駅から分岐、といった案が検討されています。しかしながら、いずれも列車運行を継続しながら工事を行うことが難しいことや、沿線の建物を解体する必要があること、留置線に必要な分岐器(シーサスクロッシング)の設置場所が限られていることなどから、建設は不可能いう結論に至りました。

また、元町・中華街駅から先で、港の見える丘公園ではなく、本牧山頂公園や元町公園、外国人墓地といった他の公共用地の地下に建設するという案については、駅から距離があることから事業用地が大きくなり、地域への影響も大きくなるため現実的ではないと判断。そのほか駅から直進する案などもありましたが、最終的に地権者数と地域への影響を最小化できるのは港の見える丘公園の地下であるとされています。

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これらの資料を見る限り、やはり当初計画に基づき進めるのが最も適切であるのではないかと感じられます。しかしこのまま工事を進めるにしても前途には困難も待ち受けているであろうことは前述の通りです。

 

一部地権者との間で平行線が続く中、準備工事が開始されたMM線の留置線計画。その着地点はどのようなものとなるのでしょうか。なるべく多くの人が納得する形で決着してほしいものです。

 

最後までご覧いただきありがとうございました。

またお会いしましょう。

 

2022年4月4日

Nagatown