東京メトロ延伸の”NPV”は2,441億円…ってどういうこと?【鉄道×経営学】
3月28日、東京メトロが申請していた有楽町線と南北線の延伸事業が国交省により正式に許可されました。この事業が有する非常に高い社会経済的有益性を示す指標の一つが表題にもある”NPV”です。延伸事業の効果を、NPVを用いて読み解いてみましょう。
皆さまこんにちは。「Railway Frontline」運営者のNagatownです。
シリーズ【鉄道×経営学】の初回は、開業に向けて始動した東京メトロの延伸計画について、経営学(特にファイナンス)において用いられるNPVという指標を用いて解説していきます。
事業許可を受けて動き出す延伸事業
3月28日、東京メトロはかねてより申請していた有楽町線延伸(豊洲~住吉間)と南北線延伸(白金高輪~品川間)の第一種鉄道事業許可を受けたと発表しました。
この二つの路線の延伸計画は、以前から東京都や沿線の区などが整備を強く求めていたものです。東京メトロは当初「副都心線が最後の新線建設」としていましたが、国と東京都が半分ずつ所有する同社株式の売却に向けた検討過程において、この二路線について「整備を行うことが適当」との文言が答申書に盛り込まれました。これは、株式売却を早期に進めたい国と、要望の強い新線建設に対する影響力を保ちたい都との間の利害調整を狙ったものとみられています。このことをきっかけに東京メトロは従来の方針を転換して新線の建設を行うこととなり、ここ数年で事業化に向けた動きが大きく加速していました。
有楽町の延伸区間では途中に三つの新駅が整備されます。そのうちの一つは東西線と乗り換えできる東陽町駅で、ここに有楽町線が乗り入れることによって東西線の混雑率を約20%低減させることができると見込まれています。
また、両線において10分程度の所要時間の短縮、及び地域間のアクセス向上といった整備効果が期待できるとされています*1。
NPV=Net Present Valueとは?
さて、本記事のテーマであるNPVについてここでご説明しましょう。
NPVとは、Net Present Value(=正味現在価値/純現在価値)の略で、ごく簡単に言えば、「ある事業が投資額と比較してどれだけの価値を持っているのか」ということを表します。
計算式は以下の画像に示していますが、算出過程の概要を説明しましょう。
まず、ある事業を行った場合に、その後の一定期間(数十年)に得られるであろう営業利益の増加額を試算します。この時、営業利益の増加額はその事業を継続するのにかかる費用を差し引いた後のものであることに注意が必要です。つまり、事業を行う中で「純粋に会社(出資者)の懐に入る分」のことを”営業利益の増加額”と呼んでいます。
次に、その”営業利益の増加額”を現在価値に換算します。現在価値とは、将来に受け取れる価値が、現在受け取れるとしたらどれだけの価値を持つのかということを表します。例えば、「1年後に受け取れる105万円」を現在受け取ろうとした場合、借入によってお金を得ることができますが、利率が存在するため、105万円ちょうどを現在受け取ることはできません。利率が5%であれば現在受け取れるのは利率の分を割り引いた100万円ですから、「1年後に受け取れる105万円の現在価値は100万円」となります。NPVの算出においては、利率に加えてリスクなども加味した割引率を用いて割り引くという操作を行います。
最後に、現在価値に換算した”営業利益の増加分”から投資額を引きます。投資額は事業を始めるためにかかる金額であり、これを差し引くことによって「”収入”ー”費用”」を現在価値ベースで表すことができます。
すなわち、NPVが0以上であれば、最終的に会社(ひいてはその会社の出資者)が得をするため、その事業を行うべきであるという判断になります。このようにして事業の実施可否を判断する方法を”NPV法”といいます。
東京メトロ延伸のNPVが2,411億円。つまり?
NPVの概要を理解したところで、今回の延伸事業のNPVを見てみましょう。
国土交通省が2019年にまとめた「東京圏における国際競争力強化に資する
鉄道ネットワークに関する調査」では、今回着手される事業について需要予測などともにNPVの試算が行われています。
それによると、有楽町線延伸のNPVは1,581億円、南北線延伸のNPVは860億円で、双方を合わせると2,441億円となるといいます(いずれも社会経済条件が上位条件となるケースで、30年間の評価)*2。
さて、これはどういうことを意味するのでしょうか。NPV算出の仕組みと合わせて考えていきましょう。つまり、「延伸事業を行った場合、開業後30年間で東京メトロが得る営業利益の増加額を現在価値に直し、そこから初期投資(≒建設費)を差し引いても2,441億円が残る」ということになります。NPV法ではNPVが0より大きければ実施すべきとなりますから、東京メトロの延伸事業はNPVの観点からは当然行うべき事業であると言えるでしょう。それどころか、将来30年間で現在価値ベースで2,000億円以上の利益が東京メトロにもたらされるのですから、非常にうまみのある投資です。もし同社の株主が上場されていれば間違いなく株価は大きく上昇していたでしょう。
東京メトロの延伸事業の完成を楽しみに待ちたいですね。
最後までご覧いただきありがとうございました。 またお会いしましょう。
2022年3月30日
Nagatown
*1:東京メトロ 「有楽町線延伸(豊洲・住吉間)及び南北線延伸(白金高輪・品川間)の鉄道事業許可を受けました」 https://www.tokyometro.jp/news/images_h/metroNews220328_2.pdf
*2:国土交通省 「東京圏における国際競争力強化に資する鉄道ネットワークに関する調査」 https://www.mlit.go.jp/common/001287257.pdf