Railway Frontline

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肥薩線「鉄道復旧前提」で議論。県・国も財政支援に本腰か。22日の検討会議で【鉄道最新情報】

豪雨災害で被災し運休中の肥薩線について、JRと県、国の三者で協議する検討会議の第1回が開かれ、”鉄道での復旧を前提に”議論を進めることが確認されました。

肥薩線についてはこちらの記事もご参照ください

railway-frontline.hatenablog.com

皆さまこんにちは。「Railway Frontline」運営者のNagatownです。

今回の【鉄道最新情報】は、当サイトでも数日前にお伝えしたJR九州肥薩線についての続報となります。

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画像はhttps://www3.nhk.or.jp/lnews/kumamoto/20220322/5000015069.htmlより引用

初回からまさかの”鉄道前提” 地元も国も本気度高く

3月22日、「第1回JR肥薩線検討会議」が熊本県庁で行われました。これは、2020年7月の豪雨で甚大な被害を受けて八代~吉松間で不通が続いているJR肥薩線の復旧方法や復旧後の在り方などについて検討する会議で、JR九州熊本県国土交通省から担当者が出席しています。

この会議は非公開で行われたものの、終了後に報道各社が関係者への取材などを通してその内容を伝えています。

JR側は復旧費の概算(200億円余とみられる)を呈示し「過去に経験したことのない金額」と表現。年間約9億円の赤字を抱える肥薩線の復旧は「経営判断事項」として、復旧に対して慎重な姿勢を引き続き表明しました。また、「持続可能な運行に向けた整理」も求め、鉄道で復旧するのであれば復旧後にも財政的な支援が必要であるとの認識を示しました*1

これに対して熊本県は従来通り全線鉄道での早期復旧を強く要望。一方で「持続可能な運行の確保に関しても議論を進めたい」として、県と沿線市町村、JR九州による協議会を別に設け、そこで復旧後の財政支援などについて検討するという考えを示しました*2

国土交通省は、数日前の記事:肥薩線復旧に230億円。JRは自力復旧断念も、財源捻出に秘策あり?でも触れた通り、肥薩線復旧工事の一部を国の災害復旧事業と連携して行うことでJR九州の負担を削減する「事業間連携」という枠組みを採用する考えを正式に伝えました。また、復旧費の2分の1を国と自治体が負担する改正鉄軌道整備法についても、適用可能との考えを示し、現行制度上で実現できる最大限の支援を行う方針を示しました。

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筆者はこの検討会議について、「2~3回は鉄道復旧案とバス代替案などの比較を通して論点整理を行うだろう」と考えていました。しかし、実際に蓋を開けてみると第1回会議からまさかの”鉄道復旧前提で議論”ということに。JR九州が鉄道での復旧を認めるかどうかは依然不透明な部分があるものの、熊本県国交省も各種の財政支援をかなり本腰で検討していることを勘案すると、鉄路復旧の可能性は格段に高まったと言えるでしょう。これはひとえに、県と国が復旧に必要な財政支援を本気で打ち出していることによるものでしょう。

今後、会議は1,2か月に1回のペースで行われ、議論が深められる見通しです*3

 

”災害復旧費で復旧費用肩代わり”に見る国交省の意思

国交省が示した「事業間連携」というのは、肥薩線の復旧に関わる一部の工事を、災害復旧事業(税金が投入される公共事業)として行うもので、橋梁建設や路盤整備などに掛かる費用の一部を実質的に国が負担するというものです。

以前より、国がこの枠組みを検討しているということは報道されていましたが、今回の検討会議で国交省が正式に俎上に上げたことで、国もできるだけの財政支援をしながら鉄道復旧を目指すという明確な意向が明らかになりました。国交省の田口課長は「国も積極的に関与する形で、事業間連携でカバーできる部分も相当大きいんじゃないか」と述べており、”国からの支援”が肥薩線復旧に向けた大きな推進力となっていきそうです。

 

沿線を地盤とする”大物”も復旧願う集会に駆け付け

この検討会から遡ること2日。肥薩線の早期復旧を願うアピール集会が人吉市で開催されました。集会は沿線の3県16市町村でつくる「肥薩線利用促進・魅力発信協議会」が代表発起人、地元商工会や住民団体など計58団体が発起人となり、沿線自治体の首長や住民など350人が参加しました。人吉市長や熊本県知事も招いた大規模なもので*4、これだけでも沿線地域の肥薩線に掛ける期待の大きさが伝わってきますが、ここにはもう一人、ある”大物”が駆け付けていました。

金子 恭之(かねこ やすし)氏。岸田内閣において総務大臣を務める現役閣僚です。金子氏は集会の席上、肥薩線について「一度の災害で、廃線になるという事はあってはならない。いかにJR九州の負担を減らしていくか」と述べ、肥薩線の復旧を支援する立場を明確にしました*5。実は、金子氏の選挙区は熊本県第4区であり、人吉市をはじめとした肥薩線の沿線自治体が含まれているのです。また、過去には国土交通副大臣の経験もあるなど、国土交通行政にもゆかりのある人物です*6

勿論、この情報のみをもって「肥薩線は金子氏の政治力によって復旧されるのだ」などと言うことはできませんし、そんなことを軽はずみに言うべきでもありません。ただ、いろいろな意味で興味深い動きであることは確かです。

 

「九州一の赤字路線を巨額を掛けて復旧するのは厳しいのではないか」という傍からの心配をよそに、あくまで鉄道復旧に向けて邁進していく肥薩線。この先にどのような展開が待っているのか、引き続き注視していきたいと思います。

 

最後までご覧いただきありがとうございました。

またお会いしましょう。

 

2022年3月23日

Nagatown

*1:読売新聞 「肥薩線 復旧前提に議論」 https://www.yomiuri.co.jp/local/kyushu/news/20220323-OYTNT50019/

*2:毎日新聞熊本県『持続可能な運行確保を』 肥薩線復旧検討会議初会合」 https://mainichi.jp/articles/20220322/k00/00m/040/285000c

*3: 「JR肥薩線『鉄道での復旧』前提に議論 国、県、JRが初会合」 https://kumanichi.com/articles/595817

*4:読売新聞 「肥薩線の復旧訴える 人吉で集会 市町『必ず実現』」 https://www.yomiuri.co.jp/local/kumamoto/news/20220321-OYTNT50086/

*5:熊本放送 「JR肥薩線復旧に向けた検討会 赤字路線の復旧は可能か 国が示した案とは」 https://news.yahoo.co.jp/articles/9a228b74403b212b90e304513eca271f42ee32d5

*6:首相官邸 「金子 恭之」 https://www.kantei.go.jp/jp/100_kishida/meibo/daijin/kaneko_yasushi.html