Railway Frontline

鉄道にまつわる最新の情報やデータを収集・分析しながら、新しい時代における鉄道の在り方について理解を深める場となることを志向しています。

「営業係数」とは何者か?高いと赤字?【鉄道用語解説】

路線の収益性を表す指標として好んで用いられることが多い「営業係数」。その見方は非常に分かりやすく便利ですが、その”中身”について吟味したことはあるでしょうか?

(※読了目安:約4分)

皆さまこんにちは。「Railway Frontline」運営者のNagatownです。

シリーズ【鉄道用語解説】第3回は、いわゆる赤字路線についての報道などでよく取り上げられる指標である営業係数を解説します。

f:id:RailwayFrontline:20220318143101p:plain

営業係数の例。(左:海芝浦駅、右:新函館北斗駅、画像はいずれも筆者撮影)営業係数の値はhttps://toyokeizai.net/articles/-/193269より引用

営業係数って?

現在、我が国の鉄道の多くは民間の営利企業、つまり利益追求を第一義的な目標とする組織によって運営されています(株式未上場のJRや第三セクター等 例外はあり)。従って、運営している路線の収益性を明らかにすることが重要となってきます。そのために用いられる指標が「営業係数」なのです。

営業係数は、以下の式で求められます。

営業係数=(支出÷収入)×100

支出を分子、支出を分母に持ってきた形で、そこに100を掛けています。そのため、営業係数は以下のように、「100より大きいと赤字・100で収支均衡・100より小さいと黒字」という具合に収支関係を簡潔に示してくれます。よく使われる「100円稼ぐためにかかる費用」という表現が最も分かりやすいと思います。

f:id:RailwayFrontline:20220318164853p:plain

営業係数は収入に占める支出の割合であるため、個々の路線の支出・収入の金額の大きさに関わらず比較をすることができ、その面でも非常に使い勝手の良い指標と言えるでしょう。

 

営業係数の”中身”

ここで、営業係数の式に含まれる「支出」と「収入」について少し深堀してみましょう。

まず、「支出」はその路線を運行するのに必要となる資金の流出分のことです。具体的には、線路や駅などの維持費や乗務員の人件費、列車の走行に用いるための電力料金・燃料費などがこれにあたります。

そして、「収入」はその路線を運行することで得られる資金の流入分で、運賃収入や特急料金などがこれにあたります。

ただし、注意が必要なのは、これらの支出や収入は、必ずしも個々の路線に対応して算出されているとは限らないということです。例えば、二つ以上の路線が乗り入れる駅の維持費はどの路線の支出となるのか不明です。また、複数路線を跨いで乗車した旅客から支払われた運賃収入はどの路線の収入となるのかわかりません。他にも、鉄道会社の本社で勤務する社員の支払給料や広告費など、路線ごとではなく会社全体として算出されている費用や収入が存在しているのです。

こうした場合によく取られる方法が、「全社共通の支出や収入を、営業キロや輸送人キロを用いて各路線に配分する」というものです(原価会計ではこの作業を”配賦”と呼んでいます)。例えば、運賃収入を配分する際には、輸送の規模を表す輸送人キロに基づくのが妥当といえます(輸送の規模と運賃収入の大きさは一般に比例すると考えられるため)。

f:id:RailwayFrontline:20220319110130p:plain

輸送人キロについて解説した過去の記事はこちら↓

railway-frontline.hatenablog.com

 

赤字路線を営業係数で語る際の注意点

営業係数が鉄道会社から公式に発表されることは多くありません(JR北海道などは公表しています)。ただ最近では、「○○線の営業係数はこんなに大きい!」というデータも広く出回っています。これらの多くは、鉄道ジャーナリストの梅原 淳氏が国交省の統計年報をもとに算出されたものを典拠としています。ここでは前項で述べたような支出・収入の配分も行われ、精度の高い試算となっています。筆者自身も、同氏の精緻な分析には毎度脱帽しています。

toyokeizai.net

このようにして営業係数という概念が広く知れ渡ったことにより路線の収益性についての理解が深まった一方で、これらの値を用いた議論には誤解も見られます。

営業係数は、「小さいほど収益性が高く、大きいほど収益性が悪い」という示唆を与えてくれます。しかしながら、これは「黒字や赤字の絶対的な額」を意味するものではありません。営業係数が非常に大きくても、赤字額は小さいということも十分ありえるのです。それを無視して、営業係数の大きい路線を殊更に悪玉扱いすることには異論もあります。

「100円稼ぐのに何千円もかかっている」というのは非常にキャッチ―な謳い文句ではありますが、実際の運営にどれだけの金額が掛かるのかということを伝えるには不十分です。また、前回の輸送密度の記事でも述べた通り、収益性や効率性のほかにある鉄道の価値を、こうした数値の与える印象が覆い隠してしまうのもいささか問題があるといえるでしょう。

 

まとめ

以上が営業係数についての解説になります。最後にポイントをおさらいしておきましょう。

  • 営業係数は、路線の収益性を、収入に占める支出の割合として示す指標である
  • 営業係数=(支出÷収入)×100」で求められる
  • 営業係数は100を超えると支出超過(赤字)、100で収支均衡、100を下回ると収入超過(黒字)となる
  • 共通の支出や収入は営業キロや輸送人キロなどで配分
  • 数字から受ける印象のみに頼った議論とならないよう注意が必要

 

練習問題

理解度確認のための練習問題を掲載しておきますので、知識定着にご活用ください。

問1. A鉄道では、a線とb線を運営している。2020年度のA鉄道の運賃収入は800,000円であった。これを輸送人キロを用いて各路線に配分せよ。なお、a線の輸送人キロは60,000、b線の輸送人キロは40,000であった。

問2. 2020年度におけるA鉄道a線の支出合計は340,000円、b線の支出合計は330,000円であった。問1で求めた路線ごとの運賃収入を各路線の支出合計として、各路線の営業係数を求めよ。小数点以下は四捨五入すること。

 

前回の練習問題の模範解答

問1. 50,495,190÷20.5(㎞)÷366(日)=6,730(人/日)

(※2019年度には2020年2月29日が含まれるため、366日で割る。)

問2. イ、エ

(ア:正しい。/イ:営業キロが長いほど輸送密度は低くなる。/ウ:正しい。/エ:線区の区切り方によって輸送密度は大きく変わることがある。)

 

最後までご覧いただきありがとうございました。

またお会いしましょう。

 

2022年3月19日

Nagatown