Railway Frontline

鉄道にまつわる最新の情報やデータを収集・分析しながら、新しい時代における鉄道の在り方について理解を深める場となることを志向しています。

やまびこ223号の脱線について現時点で利用可能なデータを用いて考察(※不確定要素を含む)【鉄道×防災】【緊急特集】

16日夜の地震で脱線した東北新幹線「やまびこ223号」。事故現場はどのような状況だったのか、これまでの地震対策は効力を発揮したのか。現時点で明らかな情報をもとに可能な限り考察します。

※本記事は、2022年3月17日14時時点で入手可能な情報をもとにしており、これらの情報は今後変更が加えられる可能性があります。また、本記事の執筆にあたっては確実な情報を用いるよう留意しておりますが、記事の性質上、現時点で不確定な情報が含まれうることを何卒ご了承ください。

 

今回の地震で亡くなられた方のご冥福と、けがをされた方の一日も早い回復を心よりお祈り申し上げます。また、この地震によって不安な思いをされている方や、精神的なストレスを抱えられている方の心が少しでも早く安らぐようお祈り申し上げます。

 

今回の地震脱線事故の概要

3月16日午後11時36分に発生した福島県沖を震源とするマグニチュード7.4(暫定値)の地震では、宮城県登米市蔵王町福島県の相馬市、南相馬市及び国見町で最大深度6強を観測したほか、東日本を中心とした広い範囲が強い揺れに見舞われ、各所で被害が発生しています。

この地震により、東北新幹線の福島~白石蔵王間を走行中だった東京発仙台行きの「やまびこ223号」が脱線したと発表されています。この列車の乗客75名にけが人は確認されていないということです*1

また、事故現場の状況が報道ヘリからの写真などによって少しずつ明らかになってきています。17両編成の列車のうち1両を除く16両が脱線し、一部は線路から大きくはみ出たり傾いたりしており、高架橋や架線柱といった設備にも損傷が確認されるなど大きな被害が発生しているとみられます。運行への影響も長期に渡りそうです。

www3.nhk.or.jp

 

やまびこ223号とは

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やまびこ223号は、東京を21:44に出発し、上野・大宮・宇都宮・新白川・郡山・福島・白石蔵王に停車しながら終点の仙台には23:46に到着する東北新幹線の列車です。E5系(またはH5系:事故当該列車はH5系)とE6系を連結した17両編成で運転されています。また、東京から那須塩原以北へ向かう最終列車でもあります。

時刻表を見ると、地震が発生した22:36には白石蔵王~仙台間を走行していたはずですが、実際には福島~白石蔵王間で列車は脱線しています。このことから、事故当時列車は少なくとも4分以上遅れていたと考えられます。最終列車やそれに近い時刻の列車では、乗り遅れそうな人を待ったりして多少の遅延が発生することは珍しくありません。

 

事故発生地点は

やまびこ223号は、白石蔵王駅から約2㎞の地点で脱線しました*2。事故現場の写真などから大まかに特定した事故発生地点がこちらになります。

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画像は Google Earth より引用、一部改変

高架上の開けた直線区間で、線路脇には変電設備と思われる設備があります。現場の住所は宮城県白石市で、同市における今回の地震の観測震度は5強でした。最大震度を観測した地点ではないということは少なからず意外に思われます。また、事故発生地点が白石蔵王駅から約2㎞と近いことから、列車は同駅に停車するため既に減速していた可能性が高く、減速が間に合わなかったというパターンとはまた異なるように思われます。

 

地震は何秒で事故現場に到達したのか

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画像は jSTAT MAP より引用、一部改変

事故現場の震央距離は約91㎞と分かりました。また、今回の地震震源の深さは57㎞と推定されています。ここからごく簡単な三平方の計算で震源距離を算出すると、約107㎞となります。また、S波(主要動)の速度を4.0km/sと仮定すると、事故発生地点へのS波到達時間は約27秒後と試算されます。これは、新潟県中越地震上越新幹線が脱線した際のS波到達時間である6.4秒よりは長く*3、多少の時間の猶予はあったと考えられるものの、緊急地震速報を受けて完全に停止するには難しい時間であったと推測されます。

 

これまでの地震対策は効果を発揮したのか

新幹線は1964年の開業以降、幾度か大きな地震に見舞われています。例えば、1995年の阪神淡路大震災では山陽新幹線の高架橋が大きな被害を受けましたが、地震発生が始発列車の直前であったため人的被害はありませんでした。また、2004年の新潟県中越地震では走行中の上越新幹線が脱線。レールが転倒するなどして車両が大きく逸脱しましたが、対向列車がなかったことなど不幸中の幸いもあり、死者は0人でした。このほか、11年前の東日本大震災東北新幹線の試運転列車が脱線したり、熊本地震九州新幹線が脱線するといった事故がありましたが、いずれも列車がレールから大きく逸脱するようなことはなく、比較的軽微な被害にとどめることができたと言われています。

新幹線には、これまで大きな地震で被害を受ける度に地震対策を見直し、強化してきた歴史があります。その成果として、P波(初期微動)を検知した直後に送電を停止してS波(主要動)の到達前に列車を停車ないし減速させるシステム(「ユレダス」や「テラス」などと呼ばれます)や、大きな揺れで脱線した場合でも車両がレールから大きく逸脱することを防ぐ「L型車両ガイド」(「逸脱防止ガイド」とも。JR東日本以外では異なる構造のものもあるが原理は同じ)、レールそのものが転倒することを防止する「レール転倒防止装置」などが導入されています。また、それに加えて高架橋や架線柱などの耐震補強も順次行われ、地震対策には万全を期してきました*4

しかし、今回の地震ではその対策の効果がフルに発揮されたとは言い難いでしょう。勿論、ユレダスによって列車はしっかりと減速していました。当該車両にはL型車両ガイドが、また当該区間の線路にはレール転倒防止装置が設置されていました。それでも実際には、列車はかなり大きく脱線してしまっています。これはL型車両ガイドが正常に動作していれば考えられないような脱線の仕方です。

また、気になる点はまだあります。当該列車の乗客の証言によれば、ジャンプするような揺れだとか、投げ出されるような揺れを感じたといいます。しかし、前述したように事故現場の震度は5強。低速で走行している列車がそこまでの揺れにさらされるほどの震度でしょうか。また、報道ヘリからの映像では、事故現場の高架橋が一部で激しく損傷し、大きなひび割れや鉄骨の露出がみられています。

これらの要素から推測されること(不確実性高め)として、今のところは「高架橋の耐震強度不足」ということが一つの可能性として挙げられると思います。耐震補強が行われた高架橋では銅板や鋼板、コンクリートなどが巻かれていることが一般的ですが、写真を見た限りではそうした跡は見受けられなかったように思われます。当該区間の高架橋が補強工事の対象であったかどうかはまだ発表されていませんが、もし仮にそこに問題があったとすれば、今後近いうちに情報が明らかになることでしょう。もちろん筆者のこの推測が大外れする可能性もありますが。

いずれにせよ、今回の脱線事故で死傷者が発生しなかったのは不幸中の幸いというほかありません。これまで絶えず改良が続けられてきた新幹線の地震対策に、さらなる見直しが加えられる契機となることでしょう。

 

最後に

当サイトは、鉄道の未来について考えることを主なテーマとしていますが、”鉄道が安全であること”はその大前提であると認識しています。今後とも、不断の努力によって輸送の安全と安心が確保されていくことを願ってやみません。

 

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

またお会いしましょう。

 

2022年3月17日

Nagatown