Railway Frontline

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最近よく聞く「輸送密度」とは?低いと廃線になる?【鉄道用語解説】

ローカル線に関する報道などでよく話題に上る「輸送密度」。どうやって算出されていて、どんな特性を持った指標であるかご存じでしょうか?

(読了目安:約7分)

皆様こんにちは。「Railway Frontline」運営者のNagatownです。

シリーズ【鉄道用語解説】の第2回は、路線ごとの輸送効率を把握する際に重要な輸送密度について解説します。

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輸送密度は線区によって大きく異なる。(左:苫小牧駅、右:西日暮里駅・いずれも筆者撮影)輸送密度の値は2020年度のもの

輸送密度って?

鉄道の特徴として真っ先に挙げられるのが、沢山の人を一度に運べるということ、つまり「大量輸送」です。鉄道がエネルギー効率がよいとか環境にやさしいと言われる所以は、主にこの大量輸送という特性にあります。

ここで問題になるのが、定性的に効率がいいと言っても、実際のところどのくらい効率よく輸送しているのか?ということ。これを定量的な指標により示すのが、今回ご紹介する「輸送密度」なのです。

輸送密度は、以下の式で求められます。

 輸送密度=年間輸送人キロ÷営業キロ÷365日

輸送密度というのは、つまるところ「1日1キロあたりの平均乗車数」です(このことから「輸送断面」と呼ばれることもあります)。「1日あたり」とすることで平日や休日など日によって異なる輸送量のばらつきをならし、「1キロあたり」とすることで駅間ごとの輸送量のばらつきをならすとともに、営業キロの異なる路線間での比較を可能にしています。

式を見ればわかる通り、輸送密度は年間輸送人キロの増加関数であるとともに、営業キロの減少関数となります。換言すれば、年間輸送人キロ(ここでは大雑把に利用者数と捉えても可)が増えれば輸送密度は上がり、営業キロ(路線の長さ)が長くなれば輸送密度は下がります。”密度”ですから、区間が長くなるとその分薄まるというイメージです。

※簡単化のため「365日」と表記していますが、閏年にはもちろん「366日」で割ることになります。

※上の式で用いられている「輸送人キロ」については、前回記事で解説していますのでそちらをご参照ください。

railway-frontline.hatenablog.com

 

近頃話題の輸送密度

近年、人口減少やモータリゼーション、コロナ禍などの影響を受け、地方のローカル線における利用者の減少が深刻となっていることは周知のとおりです。こうした流れの中で、利用の少ない路線の存廃について検討がなされる機会が増えていますが、そこで輸送密度が基準としてよく取り上げられています。

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JR北海道(2016)より引用

厳しい経営環境に苦しむJR北海道は、2016年11月18日に「当社単独で維持することが困難な線区について」と題した資料を公表しました。この中では、同社の保有する路線を主に輸送密度の観点から分類しており、例えば輸送密度200人未満の路線(所謂”赤線区”)は「バス等への転換について地域の皆様と相談を開始」、輸送密度200人以上2,000人未満の路線(所謂”黄線区”)では「鉄道を維持する仕組みについて地域の皆様と相談を開始。そのうえで、輸送サービスとして鉄道を維持すべきかどうか検討」するとしています*1

また、コロナ禍で鉄道の利用者が急減する中、JR西日本の長谷川社長は2021年暮れのインタビューで「(輸送密度が)2,000人以下のところは大量輸送機関である鉄道の特性を生かせず、非効率だ。非効率な仕組みを民間企業として続けていくことが、現実的に難しくなっていると発言し、輸送密度を一つの尺度として存廃議論を加速させる構えを鮮明にしました。輸送密度が2,000人以下の路線は同社の在来線全体の3割超に上ります*2

さらに、遡れば国鉄時代末期にも、赤字ローカル線の整理において輸送密度を基準として廃止路線が選定されたという歴史があります。ここでは、輸送密度が4,000人未満の路線が「特定地方交通線」として指定され、バスに転換することが適当と判断されました。

前述したように、輸送密度とは輸送の効率性を示す指標です。従って、これが低いほど効率が悪いということになります。そうであれば、その値が一定の基準を下回った路線においては、もはや大量輸送を得意とする鉄道で運ぶ必要性は薄いと言えるのではないでしょうか。これが、輸送密度を基に鉄道の存廃を決めようとする立場をとる人々の主張であり、十分な説得力のあるものです。

 

輸送密度の功罪

輸送密度は、鉄道がどれくらい効率よく人を運んでいるのかということを具体的、平均的に、かつ線区間の比較が容易となるようにに表現してくれています。これにより、冒頭の画像で示したような大都市の通勤路線と地方ローカル線の直接的な比較も可能となるのです。そうした意味では非常に便利で優秀な指標ですし、これからも引き続き様々な場面で活用されていくことでしょう。

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JR東日本 (2021) をもとに一部改変

一方で、利用にあたっては注意すべき点もあります。特に、「線区の分割の仕方によって大きく数値が変動しうる」という特性はかなり厄介です。JR東日本内房線(2018年度のデータ)を例に考えてみましょう。内房線は、千葉県の蘇我駅から安房鴨川駅の間を結ぶ路線で、全線を通しての輸送密度は20,483人です。しかし、線区を更に区切ると様相は一変します。東京に近く通勤通学需要も多い蘇我~君津間は57,566とより高い数値を記録している一方、人口減やアクアラインの開通などで利用の減少が著しい君津~館山間は3,921人と大きく下がります。館山~安房鴨川間に至っては1,621人にまで落ち込んでいます*3。つまり、線区の区切り方によって利用の少ない区間を目立たせたり、逆に利用の多い区間を見えにくくしたりすることができてしまうのです。これは、意識的にも無意識的にも行われうることです。

加えて、輸送密度が便利だからといってそれに頼りすぎるのも考え物です。輸送密度が低い路線でも、鉄道が全く役に立たないとは限らないからです。ここでは詳細には立ち入りませんが、費用便益分析などの手法を用いて鉄道の価値を再評価したうえで存続を決断した地域もあります。そのようなプロセスを経て存続した路線の中には、輸送密度が4,000人を下回るところはもちろん、2,000人や1,000人を下回るところもあるのです。輸送密度は鉄道の大量輸送という側面から見た限定的な”効率性”にのみ注目した指標であるため、それだけで鉄道の必要性について結論を出すことはできない、という意見もまた存在するというわけです。

 

まとめ

以上が輸送密度についての解説となります。最後にポイントをおさらいしておきましょう。

  • 輸送密度は、輸送の効率性を、1日1キロあたりの平均乗車数として表現した指標である。
  • 輸送密度=年間輸送人キロ÷営業キロ÷365日閏年は366日)」で求められる
  • 国鉄は輸送密度4,000人、JR西日本は2,000人を一つの基準に存廃議論
  • 線区の区切り方によって輸送密度の値は大きく変動しうる
  • 輸送密度のみを重視した画一的な存廃判断には異論もあり

 

練習問題

理解度確認のための練習問題を掲載しておきますので、知識定着にご活用ください。

問1. A鉄道では2019年度の年間輸送人キロが50,495,190であった。なお、A鉄道の総営業キロは20.5㎞である。このとき、2019年度におけるA鉄道の輸送密度を求めよ。

問2. 以下の文の中から誤りを含むものを全て選択せよ。

   ア. 輸送密度を上げる方法として利用者数を増やすことが挙げられる。

   イ. 営業キロが長いほど輸送密度が高くなる。

   ウ. 国鉄時代末期にローカル線の廃止基準とされたのは輸送密度4,000人である。

   エ. 線区の区切り方を変えても輸送密度は変わらない。

練習問題の模範解答は次回の【鉄道用語解説】(3月18日公開予定)にて発表します。どうぞお楽しみに。

 

前回の練習問題の模範解答

問1. 15(人)×20(㎞)=300

問2. 822,000×2.5(㎞)=2,055,000

問3. C鉄道:400÷80(人)=5(㎞) / D鉄道:800÷50(人)=16(㎞) / いえること:C鉄道は輸送人員が多い一方で1人あたりの乗車距離が短く、D鉄道は輸送人員ではC鉄道に劣るものの1人あたりの乗車距離はC鉄道の約3倍と長い。結果として、輸送人キロで比較すると輸送の規模としてはD鉄道の方が大きいといえる。

 

 

それでは、最後までご覧いただきありがとうございました。

またお会いしましょう!

 

2022年3月16日

Nagatown

*1:JR北海道 (2018) 「当社単独では維持することが困難な線区について」 https://www.jrhokkaido.co.jp/pdf/161215-4.pdf

*2:筒井 (2021) 「JR西社長『輸送密度2千人以下は非効率』路線見直しに目安」 https://www.asahi.com/articles/ASPDX72TBPDRPLFA004.html

*3:JR東日本 (2021) 「路線別ご利用状況(2016~2020年度)」https://www.jreast.co.jp/rosen_avr/pdf/2016-2020.pdf